作業をもちいる療法の基礎
 




                                      
(山根 寛(2002).「精神障害と作業療法第2版」pp.56-90)
 活動(作業)をもちいる療法は,対象者とセラピストの治療・援助関係が,活動(作業)を介して成りたっている.対象者が実際に自分で何かをする,他者と交わる主体的な体験(身体的体験,精神的体験,心理社会的体験),活動(作業)を介してセラピストや他の人たちと関わる,といった人や物との対象関係を利用する
対象者

 作業療法は、「施される」「受ける」医療ではなく、本人が主体的に「取り組む」「対処する」、対象者の納得と主体性を前提とした、サービスを提供する者と利用する者との協力関係によって成りたちます。また、作業療法の効果は、対象者自身がどのように納得し満足するか、その主観的効果が大きな意味をもちます。
 主体性を奪われた者は、主体性を押し殺すことで、自己を守ろうとします。そうした人たちが、やすらぎ、ほっとし、もう一度自分の人生に望みを抱き、自らの生きがいや生活を取り戻す、主体性の回復があってこそ作業療法の援助が意味をもちます。そうした意味で、対象者の主体的かかわりが重要なな要素となることが、作業療法の治療構造の重要な特徴といえます。 
活動(作業)

 ひとは自分がくらしのいとなみとしておこなうさまざまな作業体験を通して、自分以外の世界と関わり、自他の関係を学び、生活に必要な技術を身につけ、自分の気持ちを表したり、達成感や有用感、有能感、欲求などを満たしながら自分の生活をいとなみます。作業療法では、このひとと作業活動の関係を利用して、心身機能の回復、失われた生活との関係の回復、新たな生活技能の習得などを援助します。 
セラピスト

 作業療法士は対象者が出会う治療者、援助者の一人ですが、作業をもちいるという特性から、作業療法においては他の療法以上に、作業療法士という役割の人間の存在やありようが重要な要素になります。そのため、自己の治療的利用ということが重視されます。
 自己の治療的利用 the therapeutic use of selfとは、作業療法士の年齢、性別、人生経験、職業上の役割や、長所にも短所にもなりうる自己のパーソナリティの特徴など、自分自身の特性を、作業療法における対人関係のなかで、自然に生かすことといえます。 対象者との共同作業の過程で、あるがままの自分を、現実的な生活者のモデルとして生かし、自分のもつ専門職としての知識や技術を対象者に役立つように生かそうとする作業療法士の心の方向性とも言える積極的な姿勢が、相手に安心感を与えます。 
集 団

 病いや障害があり、日々の生活でひととの関係や生活のしづらさに悩まされ、意欲や自信を失った者にとって、自分の行為が、他者にどのように受け入れられるかにより、生活の障害は大きく左右されます。作業療法の効果においても、自分を認めてくれる人の存在は大きく、そのため、対象者自身がひとに受け入れられ、自分を受け入れ、ひととのつきあいの距離や自分のコントロールの仕方を身につけられるように援助します。 
場所と場

 治療援助がおこなわれる場所の物理的な構造に加え、その場所の日常の使用目的、対象者自身にとってどのような意味をもっている場所かといった場所の要素が、介入の効果に影響します。
 また、どのような場所や場で自分が処遇されるかということは、自分がどのように扱われているかという、その人自身の扱いを意味します。場の設定はひとのかかわりでは補いきれない強い影響もあり、治療や援助の成立と効果に影響する大きな要素の一つです。
時 間 

  時間は作業療法の効率と効果に関係する要素です。実際には、セラピストの配分エネルギー、対象者の適応レベル、作業内容、治療目的などによって、頻度(回/週)、 時間(1回あたり)、治療期間がほぼ決まります。
 セラピストが対象者1名にかけられる時間や精神的エネルギーには限度があり、また対象者の適応レベルによって、時間をかけることが決して適切とはいえない場合もあります。使用する作業活動の種類によっても必要な時間や制限があります。通常の作業を介するプログラムでは正味60〜90分が普通で、主観的な時間感覚も影響するため、対象者にとって負担と効果を考え、対象者の状況に応じて決めることになります。
作業をもちいる療法の基礎