NMT理論と技法の検証に
 感覚運動リハビリテーションの領域には、RAS、PSE、TIMPの3つの技法が示されている。RASは運動(歩行が主)に、PSEは音楽の要素を,TIMPは楽器演奏をもちいて動作の訓練に関する技法に相当し、歩行障害の訓練、歩容の改善、上下肢の機能強化などにもちいられる。

   ちなみに、運動、動作、行為はリハビリテーションにおいては以下のように使い分けることがある。
                   運動:身体を動かすこと
                   動作:一連の意味ある運動
                   行為:明らかな目的を持って意識的に行う意志的動作
 
 音楽の神経学的な活用という点からすれば、感覚運動リハビリテーションの領域は、もっとも音楽の特性を活かすことができる領域といえる。ただ、身体運動の基本的運動や動作の訓練には適しているが、応用動作やある目的を持った意味ある行為に必要な動作などに関しては、作業療法などのように直接リアルな活動そのものを介入手段とするほうが効果的で、あえて音楽もちいる特別な理由はない。
 しかし、
音楽性を活かすことで、リハビリテーションに対するモチベーションを高めるなど、音楽には日常の生活活動にはない豊かさがある。したがって、さまざまな喪失体験を伴っている人たちにとっては、音楽が有用な場合が多い。そうした意味においては、音やリズムといった音楽の要素を運動野動作を引き出すキューとしてもちいるだけでなく、音楽性をどのように活かすかということが、音楽をもちいる治療的介入の大きな特徴といえる。
 
歩行のように繰り返される基本運動やパターン化した手の動きなどの改善にはRASやPSEが限定的に利用できる。しかし、目的をもった応用的動作の訓練には不向きである。特にTIMPは楽器の演奏を介入手段とするため、対象と訓練目的はかなり限定される。

リズムによる聴覚刺激:Rhythmic Auditory StimulationRAS                  

:RASは、音楽による聴覚リズムを合図に、リズミカルな運動・動作を促進する技法
適用:臨床上、運動全般にもちいることは難しく、主には、脳血管性障害、パーキンソン病、外傷性脳損傷、脳性麻
   痺、ハンチントン病などの歩行訓練
  








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 人間の運動や動作は本来リズムをもってなされ、RASは、歩行のようなあるリズムをもって繰りかえされる基本的運動の訓練に適している。歩行時のリズミカルな四肢の運動や姿勢の制御は、脳幹と脊髄における感覚運動の統合により、通常は意識されることなく反射的におこなわれる。小脳や大脳基底核が大脳皮質や辺縁系、視床下部、脳幹に作用して歩行をコントロールしているためである。このような歩行のリハビリテーションは、一般には、手拍子やかけ声などで行われているが、音楽をもちいるほうが、こうした運動の場合は効果が大きい

⇒ 脳に関しては脳の構造と機能、歩行の制御に関しては、高草の歩行の神経機構(Brain Medical
  19, 307 - 315)

パターン化した感覚強化:Patterned Sensory EnhancementPSE               

概要:PSEは、音楽とそのさまざまな要素をもちいて一連の動作の空間における方向、時間的なタイミング、力の入
   れ具合を示すことで一連の意味ある動作を構成し促す、すなわち機能的動作をパターン化することで目的動作
   を促進するもの

適用:目的のある意識的な行為には無理ですが、腕の前方に伸ばす、両手を挙げて万歳をするなど、すでに決まって
   いるある一連の
意味ある粗大な運動の促進などには適用できる。




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 一連の意味ある運動、たとえば音楽に乗せて滑走するフィギュアスケートをイメージするとよい。音楽ピッチは大きな運動の方向の合図に、音強は四肢や身体の屈曲(or内転)や伸展(or外転)の合図にハーモニーは運動の大きさや協調の合図に、テンポは運動の速さやパターンづくり、筋トーンに、といった具合に音楽をもちいて一連の動作を促そうとするものである。こうした動作の促しにも介入手段として音楽が効果的といえる。したがって、パターン化できない応用動作の機能訓練には適していない。そうした意味では応用できる動作に限りがあり、作業療法で応用動作に入る前の準備訓練の一部として利用可能な場合がある。

⇒ 音楽の要素に関しては「音楽の要素

治療的な楽器演奏:Therapeutic Instrumental Musical PerformanceTIMP            

概要TIMPは、目的を持って意識的に行うある行為に対して、楽器の選択や配置を考慮して演奏することで、必要
   な上肢の可動域や巧緻動作、機能的動作、持久力、筋力、協調性などの訓練

   

適用:楽器の演奏を手段とするため、そうしたことに興味がある者や元々楽器の演奏をしたことがある人には有効で
   ある。楽器の演奏経験がない場合には、打楽器など演奏技術があまり必要で無いものをもちいる。








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 適応対象であれば、通常の運動療法より有効だが、楽器の演奏をもちいるという介入手段の特性上、生活に必要な行為を促進することには限界がある。したがってADLなどの生活上必要な行為動作を直接訓練することはできないためそれに関連する基本動作の訓練であれば利用可能な場合がある。
 またTIMPは、自分の行為で生まれる音を聞き楽器を演奏するという特性から、聴覚情報の処理や注意、感覚の処理などに、高い統合能力を必要とするため、適応対象であれば高い効果が得られる可能性がありますが、運動療法として行うには対象がかなり限定される。

⇒ 手の機能に関しては「手と脳」、音楽操作と身体の関係については「楽器操作と身体」
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