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「精神障害と作業療法」に |
作業療法の詩(青海社)より |
作業をいとなみ、作業がつむぐ |
作業療法の原点、それは、ひとが日々いとなむさまざまな作業にある。ひとの1日はさまざまな作業によって構成され、ひとはそれぞれの作業をいとなみ、そのいとなみが積みかさねられ、一枚々々風合いの異なる織物のように、一人ひとりの人生がつむがれていく。
実際に作業することを通して感じる「ああこれでいいんだ」「なんとかなる」といった「確からしさ」という感覚。この「確からしさ」という感じは、その個人の具体的な体験を通して自覚される実感のようなもの。それは、病いの床から起きあがり、おそるおそる確かめるように踏み出した一歩、そのとき踏み出した一歩に自分の体重がしっかりと支えられていると感じたときに感じる、「ああ大丈夫だ」という、あの身体感覚的な収まりのようなものである。作業の醍醐味は、心身の機能であれ、日々の活動であれ、社会への参加であれ、そうした意味ある作業体験によって生まれる身体感覚的な収まりを対象者に提供できるところにある。それは臨床知や暗黙知などと表現されるものの基盤となるもので、「身体知」にあたる。
精神の病いや障害は、身体の機能や構造に器質的な問題がないにもかかわらず、人と交わる、買い物をする、電車に乗る、働くといった日々のいとなみに、さまざまな支障を生む。その日々のいとなみの支障が長引けば、その人の生活や人生のつむぎにほころびを生む。ひとにとって精神の病いや障害とは、日々のいとなみの障害(作業障害)であり、生活や人生のつむぎのほころび(活動や参加の制限・制約)である。
対人関係の病いとも称される精神の病いにおいて、作業・作業活動は、その病いの混乱から自分を護り、現実との関係を取りもどす唯一のよりどころになる。どう対処すればよいのかわからない混乱のなかにおかれたとき、ひとは五感を閉ざし、身体の声に耳をふさぎ、こころを閉ざすことで自分を護ろうとする。そのようなときに、作業に没頭することで病いの苦しみ痛みをわすれることができ。その一瞬(ひととき)に、ひとは安らぐ。作業に身をゆだねることで、病いの混乱から救われる。 |
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手段−生活のいとなみ |
作業療法は、心身の機能・構造、疾患の病理と障害の関連などに関する医学的評価機能を基盤として、病める者の心理を理解した精神的サポート、生活様式の工夫、適応的な生活技能の習得、環境の調整など包括的総合的な支援により、病いの再燃・再発を防ぎ、その人なりの生活の再構築と社会への参加の手助けをする。
作業療法がめざすところも、他の治療や援助と異なるものではないが、ひとの日々のくらしのいとなみである具体的な作業・作業活動を手段とし、作業を共におこなう人との交わり(療法集団)や場を活かして、対象者の健康な機能に働きかけ、対象者自身が主体的に体験することを通して、心身の機能の障害を軽減し、生活に必要な技能の習得を援助し、よりよい、意味のある作業体験の場を提供することが作業療法の特徴である。
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目的-自律と適応 |
作業療法の目的
作業療法は、救われた命、贈られた命をどのように活かすかをめざしている。したがって、安静が必要な急性状態を脱した直後には、
@ 機能障害を軽減し、病的状態から離脱する(病気への対処)
A 二次的な障害を防止する(慢性・遅延への対処)
ために、早期の作業療法を始める。
そして、回復期においては、
B 心身の基本的な機能の回復をはかる(基本機能の回復、主体性の回復)
C 生活に必要な諸技能を身につける(自律と適応の援助)
など、基本的な心身の機能の回復、日常生活や社会生活の安定、社会参加にむけた指導・援助をおこなう。
長期の療養が必要な維持(療養)期に、
D 生活環境、社会環境を改善し調整する(環境への対処)
E 社会資源が利用できるようにする(自律と適応の援助)
さらに、緩和期においては、
F 痛み、苦しみを和らげる(生命の質)
G その人にとって意味ある時間を過ごす(生活の質)
H 生きてきた誇りや尊厳をもって過ごす時を共にする(人生の質)
など、生(命、生活、人生)の質を高めるあり方すべてをリハビリテーションととらえて寄りそう。
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介入-回復状態に応じたかかわり |
予防期
初発に対する予防ではなく、回復期や維持期いずれの状態にもみられる再発再燃に関連しそうなクライシスが表面化した状態。
要安静期
初発もしくは再発後、医療保護下で救命・安静が必要な状態。入院の場合は入院後1〜2週間。作業療法などすべての活動は原則として 行わない。
亜急性期
安静を要する急性状態離脱後の不安定状態もしくは疲弊状態。入院の場合は入院後おおよそ1〜2週目からか月以内。
回復期前期
現実検討や生活適応技能の指導訓練に至る前、基本的な心身の機能回復を必要とする状態。入院の場合は入院後おおよそ1、2か月長 くても3か月。
回復期後期
社会生活に向けて現実検討や生活適応技能の指導、訓練を行うことが可能な状態。入院の場合は入院後おおよそ6か月〜1年。
維持(療養)期
機能を維持しながら生活に視点をおいた援助が必要な状態。通院治療を受けながら地域で生活する社会内維持と、医療による保護的環 境下で生活の質を維持する施設内維持(本来の療養病棟)とがある。
緩和期
ホスピス的な要素で医学的管理をしながら人生の最後を安らかに過ごすことが主となる状態。
*これらの状態を示す各期は時系列的なものではなく、各状態と目的なども固定された関係を示すものではない。
回復状態に応じたリハビリテーションと作業療法の詳細表はこちらをクリック |
「精神障害と作業療法」に |
**詳細は『精神障害と作業療法』第3版pp49− 70 |