ガンガーの白い石、それは人の手を介してリシケーシュのカシナータ・木村夫妻から届けられた。
 私の初めての書「精神障害と作業療法」に取り組んで最初の壁にぶつかった2カ月目の春。身体がつかんでいることを言葉にすると何か違ってしまうもどかしさに、言葉が止まった。そのとき、知人のカシナータ・木村夫妻を訪ねてインドに旅をする機会があった。若い友人たちとの旅である。山の稜線の向こうから陽が昇り、にび色の川面が黄金色に輝きはじめるガンガーの朝、氷河がとけて流れる水で沐浴し、日中は焼きつける日差しの中を歩き、夜は空に浮かぶ銀白色の月と川面に映る乳白色の月、2つの月の光に包まれて過ごした。生まれ生きること、病むこと、老いること、死ぬこと、感傷を遥かに超えた人間と自然の営みの中で、あわただしい日常のせいにして少し閉ざしていた身体性を取り戻した。
 ガンガーの白い石は、カシナータ氏が自宅の前のガンガーから取り上げたものだった。以来、私の傍にいつもあり、私に不思議な力を与えてくれるような不思議な石。私にとってのパワーストーン。

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