ひとと植物・環境 
                     
                                生活と植物

 長い病いや養生にあるとき、枕元に置かれた花一輪の「しずかな命」が、心や身体の痛み、つらさをやわらげてくれる。植物という「しずかな命」とのかかわりは、植物が育つ時間、植物に群がる虫や小動物、天候や季節など自然とのかかわりでもある。そうした四季に応じて、植物を育て、その育ちをともにする活動が、1日のリズム、くらしのリズムを取りもどし、薬食同源、医食同源、薬食帰一と同じように、ひとの心身の機能を回復、改善、維持する。植物を育て、その育ちをともにする活動の中にあるさまざまな役割と習慣がくらしを整える。
 この「しずかな命」とのかかわりを、養生や療養生活の環境として、また育てるという積極的な行為をリハビリテーションの手だてとしてもちいることができる。命をつなぐ栄養のすべては植物に始まる。植物を採取し、育て、収穫し、植物の恵みで育った動物を捕獲し、植物で家畜を養いその恵みをいただく。食物連鎖の頂点にいる人が生きるということは、植物という「しずかな命」との関係なくしては考えられないことである。
                                園芸と療法

 ひとが健康に生活するためのさまざまな生活のありようは、専門的な知識や技術の必要性、治療的介入の度合いにより、図のように表すことができる。それぞれの生活のありようによって、植物や植物が育つ環境をどのように使うのかが異なる。どこまでを園芸療法というかいわないかは、どのようなカテゴリーで括るかだけの問題である。


                                   


 療法(therapy)とは、病気やけがを治すこと(cure)を中心に、心身の機能の障害、生活上の障害(活動制限)を軽減し、病気や障害で損なわれた生きがいを取りもどし、その人なりの生活を再建する積極的なかかわりをいう。療法として行うには、
   @ 自然や植物とのかかわりの恩恵を自分1人では享受できない人に対し              (適応対象)
   A その人の心身の機能や生活における活動がどのような状態にあるか知り               (評価)
   B 対象者の心身の機能や生活の障害をどのようにしたいのか明らかにし              (目標設定)
   C 植物や園芸活動の何をもちいるのか適切な要素を手段として選び                 (手段選択)
   D そのために植物や園芸活動をどのようにもちいるのかを考え              (治療・援助計画立案)
   E その対象に合わせた工夫をおこない                              (適応・段階づけ)
   F おこなった内容とその結果を残し                                       (記録)
   G その効果を確認する                                           (効果判定)
 こうした行為が、
   H 専門の知識や技術をもった者もしくはその指導を受けておこなわれる                (専門性)
といったことが必要になるだろう。
                           療法としての分類・定義

  園芸療法は、植物を育てるという行為を中心に、植物そのものとのかかわりやその環境、育てる過程(時間)、共におこなう人と場によって成りたつ。自分で植物を育てる機能に支障があったり、育てることができなかった者にとっては、育てられた植物を対象とする場合もある。そうした植物に関連するかかわりをすべて含めて、広く園芸療法と呼んでもいいだろう。



              


               
  音楽療法や園芸療法などのようにさまざまな事物を介する補助的療法の多くは、作業療法でもちいられているさまざまな作業種目が、1900年代半ばより単独の療法手段として発達したものです。補助的療法は、作業療法における手段の違いという見かたから、「創作・表現」を主な手段とする場合「生物(命)」を手段とする場合、「運動・行為」を手段とする場合に分類されます。それぞれの療法は、完全に独立したものではなく、媒体とするものの主に何に焦点をあてるかによります。
 
  **詳細は、『ひとと植物・環境』pp.1-16、青海社、2009
ひとと植物・環境