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脳の損傷からの回復=脳の可塑性                                                  

 脳は損傷からの回復能力をある程度備えていますが、成人になってからの神経細胞の新生は嗅球や海馬に限られます。脳機能の修復は細胞の新生ではなく、細胞の突起(軸索)の伸長、シナプスの形成が重要な役割を担っています。


損傷後におきる脳地図の再配置=脳の中の身体配置を変える
 以下は、いずれも不適切な脳地図の再配置で、これにより二次的な機能障害が生まれるのです。

1.末梢神経障害
 末梢神経障害で、大脳皮質への入力情報が無くなると、その情報を受け取っていた大脳皮質の領域に入力情報が入らない空白部分ができます。大脳皮質の脳地図に空白部分ができると、空白部周囲の軸索が空白領域の神経細胞にシナプス接続し空白を埋めようとします。そのため、脳地図の再配置が起きるのです。「幻肢」は、この脳地図の再配置の結果生まれたものと考えられています。

2.中枢神経障害
 大脳皮質が損傷されたときにも、脳地図の再配置が起こります。皮質の損傷の場合は、末梢からの入力が行き先を失い、損傷されていない周囲の大脳皮質に入り込みます。そのため、脳地図の再配置が起こるのです。

機能回復とリハビリテーション
 神経障害のリハビリテーションは、訓練(脳の再学習)による大脳皮質運動野の脳地図の再配置にあたります。
 大脳皮質で起きる変化の中心はシナプスの学習による変化(Kleimら、2002)です。大脳皮質の厚みやシナプス密度は殆ど差はありませんが、1個の神経細胞あたりのシナプスの数が増加します。
 シナプスで起きる変化は、このシナプスの数が増加(側枝形成)とスパイン(樹状突起棘)の変化によると考えられます。スパイン(樹状突起棘)の変化とは、樹状突起の表面積の増加で、増加によりシナプスのつく面積を拡大し、伝達効率を高めたり、樹状突起の本幹とスパインの間の茎の部分の太さによって伝達効率を調節すると考えられています。学習によってスパインの数や形が変わる(樹状突起の表面積増加)というデータもあります。

  文献:
   Kleim JA, Barbay S, Cooper NR, Hogg TM, Reidel CN Remple MS, Nudo RJ, (2002).Motor learning-dependent synaptogenesis is localized to       functionally reorganized motor cortex. Neurobiology of learning and memory 77, 63-77.
   他
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