「精神障害と作業療法」にもどる

 
 手順−基本の流れ

           
 
 対人関係の障害ともいわれる精神障害がある人に対しては、評価を終えてから治療を開始するという方法がとりにくい。治療・援助関係の成立如何が、後の治療・援助の進展や効果に大きく影響するため、作業療法処方が出されたときから、治療・援助のかかわりは始まっている。
 精神障害に対する作業療法は、医療機関であれば、医師の指示(処方箋もしくは指示箋)が出され、その他の機関であれば、関係者からの依頼や本人の参加希望に応じて始まる。通常のプロセスは、図に示すように、初期評価、治療・援助目標の決定、作業療法計画、実施、効果検討、必要に応じて再評価と目標や計画の修正を繰り返し、終了もしくは中止・中断、最終評価と必要に応じたアフターフォロー、といった流れをたどる。

作業療法導入
 作業療法の受け入れにあたっては、できるかぎりの情報を入手し、必要なら
インテーク面接(作業療法に関するオリエンテーションを含む導入のための面接)をおこない、導入するかどうかの判定をする。初期評価(assessment)の前に、作業療法の導入の適否を検討し、導入するのであれば、当面どのようなアプローチをおこなうか、どのような評価手順でおこなうか「導入評価(screening)」を行う。

初期評価と援助計画
 
導入評価(screening)で作業療法への導入と評価手順が決まれば、必要なデータを収集し、得られたデータを整理し、整理された各項目の評価の要約から、それぞれの問題の原因と因果関係とを考え作業療法で援助することが適切な項目を選ぶ(焦点化初期評価(assessment)をおこなう。 焦点化が終わった時点で、対象者の障害の状態や回復状態により、@機能障害の軽減と二次的な障害の防止、A心身の基本的な機能の回復、B生活に必要な諸技能の習得、C環境の調整、Dよりよい作業の体験、といった大まかなレベルで何が必要かは見当がつくので、焦点化された問題から、作業療法で何を援助するか、対象者に応じた具体的な目標を設定する。そうして作業療法計画を立案し、その内容に関して対象者の理解と同意を得(インフォームドコンセント)、作業療法を実施することになる。
 作業療法が始まれば、初期計画は当面の目安にすぎず、対象者の状態は良くも悪くも日々変化する。状況に応じた臨機応変な対応が求められる。

 評価−知る作業
  作業療法は、生活の再建を目的とするため、心身の基本的な機能や生活活動における制限、社会参加の制約の状態と対象者自身の能力、生活環境などについて評価する。

評価項目
 評価の主な項目は、表1のように対象者主体に「これまでの生活」「いまの生活」「これからの生活」「環境因子」「個人因子」「自己理解と受容」に大きく分けられる。
                                  表1 精神障害に対する作業療法評価項目例
            

評価手段
 評価手段は、大きく情報収集、面接、観察、検査、調査に分けられる。精神障害領域では、表2に示すように、障害がある人とその生活を包括的に判断するため、関連するいくつもの評価手段を併用してもちいる。表中の*印は、作業療法でよくもちいられる評価手段である。


                              表 作業療法に関連する評価手段
            

情報と収集
  情報収集は、他部門のスタッフから直接聞く場合と、カルテなどの記録から読み取る方法がある。いずれにせよ、自分が直接対象者から得た一次データ以外は二次データなので、だれが、いつ、だれから、どのようにして得た情報か、情報源を明確にしておくことが必要である。

[社会的背景] 発病の原因や関連背景、金銭を含めた家族の援助など。プライバシーに関するものが大半、必要なものだけわかればよい。
[現病歴] 現在治療の対象となっている主たる疾患が、いつ、どのような状況で始まったのか、初発の時期、発病にいたる経過、発病前後の様子など初発状況は対象者特有のウィークポイントを示し、発病の経緯や発病時の状況がわかると、再燃再発予防の重要な目安となる。
[主訴、現在症] 主訴は、現在の病気に関して、本人が直接困っていることやこうなりたいと訴えていること。背景に訴えの原因である治療上のニーズ(needs)がある。事実を明らかにすることより、訴えを受けとめ、背後にある本当の原因を知ることが重要。現在症は、病気の現在の状況。
[日常生活の状態] 身のまわりのことがどの程度自分でできるのか、どのような援助が必要なのか、機能の低下があればそれは精神症状のせいなのか、未経験・学習不十分のせいなのかなどの判断が必要。
[作業療法以外の治療・援助内容] 治療・援助チームにおける作業療法士の役割を判断するために必要な情報。たとえば、薬物の種類や量、処方の変化から、対象者の症状の状態が推測できる。量は症状の強さ、種類は症状の複雑さ、頻回な変更は症状の不安定さ、といったことがうかがえる。

 
 社会的背景
  氏名、生年月日、性別
  診断名
  家族構成、関係
  家族歴      
  生育歴、生活歴 
           
  教育歴       
  職歴
  経済状況 

 現在、治療や援助の対象となっている疾患や障害名
 同居、別居、家族の特性、本人と家族の関係など
 患者と血縁関係にある人たちの病気
 誕生・乳幼児期の生育上の特徴、親子や同胞との関係、学校時代 の交友や勉強・遊び、
  家庭内や社会での役割など
 学校の種類、入学、卒業、休学、退学など
 アルバイトを含む仕事の経験、期間、職業技能
 生活費や治療費などの経済的背景
 現病歴、治療歴、既往歴 
  現病歴       
             
  治療歴
  既往歴
 現在の主たる疾患の発病時期、発病前後の様子、受診にいたる経過、初診の診断、発病
  による生活や交友関係の変化など
 入退院回数と期間、入退院時の様子、入院後の経過、治療に対する受け入れ状態など
 過去にかかった疾患
 主訴、現在症 
  主訴        
  現在症  
 本人が病気に関して主に訴えていること
 現在の病気の状態、合併症など
 日常生活の状態 
  身辺処理      
  生活管理      
  対人関係
  その他
 自律の程度と援助内容
 自律の程度と援助内容
 対象による関係、関心のもち方の違い、恒常性など
 余暇利用、生活リズム、生活習慣、一日の過ごし方など
 作業療法以外の治療内容
  主治医の方針
  薬物療法      
  看護方針
  その他の治療、援助
  リハビリテーションゴールを含む
 種類、量、目的、変更の経過、副作用の有無と程度など
 介護内容を含む
 精神(心理)療法、合併症に対する治療、その他

      *情報は常に、なぜ、何のために必要かを自覚して収集する。得られた情報から治療・援助に必要なことを判断できて初めて
       情報収集が評価としての意味を持つ。
 面 接

                            
   面接は、治療・援助関係の樹立、情報の入手・観察など評価の手段、援助や
   相談を含んだ治療的かかわり、という三側面を常に含んでいる。

   主に言葉を媒介におこなわれるが、表情、態度、行為などに表れる非言語的
   なものが大切な情報となる。作業療法では、非言語情報と行為や作品に表れ
   る非言語情報が重要。

   作業療法における面接は、対象者の具体的な作業体験と結果に基づいて話
   ができるため、通常の面接が困難な normalityの低い対象者や緊張の高い者
   にも適用でき、作業課題の設定で具体的な特性評価ができる。




                                             面接の構造

                



                                         面接時の位置関係

                        


[面接の形態]  
  フォーマルな構成的面接(structured interview)

   目的や場所、日時などが設定され、対象者の了解を得ておこなう。インテーク、評価、治療・援助に必要な情報収集、カウンセ
   リングなど

  インフォーマルな非構成的面接(non-structured interview)
   一緒に作業をしている状況やそのときに交わす言葉、ちょっとした雑談など、形式の決められていないもの。フォーマルな面接
   では得られない情報が得られることが多い
 

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  **詳細は『精神障害と作業療法』第3版pp127−179