治療・援助におけるコミュニケーションに

                         
 ひととコミュニケーション:コミュニケーションの機能 
                         

 動物は、個としての生命を維持し、子孫を残し種を永らえるために、迫り来る危険を伝え合って、共に身を守り、命をつなぐ食料の在り場所を教え合って、協同で対処しなければならない。そして、群れを保ち、種を残すために適切な繁殖相手をみつけて交尾し、子を産み、育てる。その繁殖・出産・育児を効率よくおこなうために、集団のつながりと秩序を保つ必要があります。ヒトは,この動物として共通な非言語的情報伝達機能を基盤に、ことばの獲得により特有の機能をもつようになった。
  ひととコミュニケーション:ことばの成り立ち
                          

 レモンをかじり、すっぱいという味覚が直接情報として記憶される。そしてそれが視覚情報と関連づけられることで、見る(視覚刺激)だけで、すっぱいという感覚がイメージとして再現されるようになる。さらにレモンという具体的な対象、すっぱいという性質がことば(言語)によって分節されると、「青いレモンをカリッと噛んだとき…」という「ことば」を聞くだけで、まるで自分がすっぱいレモンを噛んだかのように、思わず耳の下あたりがぞくっとして顔をしかめる。
 このように、私たちのコミュニケーションは、情報を受信する五官(感覚受容器官)と感受された五感(感覚情報)における、ヒトとしての生理的共通性を基に成りたっている。メルロ・ポンティMerleau-Pontyがいう間身体性による類似体験である(Merleau-Ponty、1960)。作業療法では、ことば(言語)の意味とともに、情報をことば(言語)として共有できる基盤にある、身体感覚レベルの共通性を活かしたコミュニケーションが、重要な役割をはたす。

 私たちが物事を判断するための基礎情報は、誕生後に身体感覚を通して蓄積されます。赤ん坊は何でも口に入れ、自分に取り入れていいものかを判断します。すべての基礎情報は、生命に直接関係する味覚や嗅覚といった近感覚(劣等感覚)に始まる
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 発達と表現様式)。
 口唇、舌、口腔粘膜、鼻腔粘膜を介した味覚・嗅覚情報は、触覚情報とともに直接情報として蓄積され、知覚・認知の基礎情報となります。その基礎情報が視覚情報と結びつくことで、見て(視覚情報)味わいや手触りなどの身体感覚がイメージとして再現されるようになる。そうして、これらの身体感覚を通した基礎情報(直接情報)が整理され、シンボルとしての言語(イメージ情報)と結びつけられることで、ことば(言語)を媒介としたコミュニケーションが可能になる(
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  ミュニケーションの仕組み:「伝え」「伝わり」
                   
 コミュニケーションシステムが適切に機能するためには、送り手は、送信対象を認知し(送信対象の認知機能)、ことばに変換し(概念化能力)、正しく発音し相手に伝える身体構造(音声と発話に関わる構造)に異常がないことが必要である。さらに、伝える気持ちがあり(心理的態勢)、伝える位置まで移動し(物理的態勢)、音声と発話に関わる構造を整える(身体的態勢)など、心理的・物理的・身体的な態勢(接触態勢)が整っていなければならない。
 受け手は、話されたことばを受け取り受信装置に異常がなく(身体的態勢)、話を聞く姿勢(心理的態勢)があり、聞き取ったことばの意味を判断する機能(受信機能)が適切にはたらくことが必要である。           
   ミュニケーションの仕組み:初めてゾウをみた子ども
                   

 遠足で動物園に行き、初めてゾウを見て自分が渡したリンゴを長い鼻でつかんで食べる姿に感動した子どもが、その体験を母親に話すときの状況を例に考えてみよう。
 その子(送り手)は、自分の体験を母親にどのように伝えるかを考えるでしょう。初めて見たゾウに近づいたときの匂い、自分の手からリンゴをゾウが鼻でつかんで食べたことなど、頭にいっぱい駆けめぐり、その子は興奮しながら、自分が使えるかぎりのことば、身振り、手振りを交えて、何とか伝えようとするだろう。母親は子どものことばや身振り、手振り、一所懸命に伝えようとする様子を見て何を話そうとしているかがわかり、その体験を「そう、○○だったので」と返し、その子は母親に自分が体験したことが伝わったのだなとわかり「そうだよ」というように大きくうなずく。子どもと母親のコミュニケーションは、母子双方の話したい、知りたいという接触態勢の整いがあり、それを基盤に、子どもの身振り、手振りや話すことばや話し方などの意味を母親が読み取ることで成立する。
  コミュニケーション手段・方法:コミュニケーションの媒介
           
  ことば(言語)によるメッセージの伝達は、直接であれ間接であれ、意味記号としての話しことば(音声言語)によるものと、筆談や文字ボード、電子メールなどの文字すなわち書きことば(文字言語)によるもの、そしてモールス符号や点字、手話のように一定のルールによってことば(言語)の意味を表象する記号(表象されたことば)によるものがある。
 意味記号としての言語以外のコミュニケーション(非言語コミュニケーション)は、「ことばの表情」「からだの表情」「物」などさまざまな要素が重なって、話し手の心のうちを言外に現しているもので、いずれも相対する者同士の五官(感覚受容器官)と感受される五感の生理的共通性を基盤に、類似体験や共有体験があって、伝わる。
  コミュニケーション手段・方法:非言語メッセージ
            

 意味記号としての言語以外のコミュニケーション(非言語コミュニケーション)は、「ことばの表情」「からだの表情」「物」などさまざまな要素が重なり、話し手の心のうちを言外に現しているもので、相互の五官(感覚受容器官)と感受される五感の生理的共通性を基盤に、類似体験や共有体験があって伝わる。 
 
 治療・援助におけるコミュニケーションに
**詳細は『治療・援助における二つのコミュニケーション』pp.70-87,2008