「治療・援助における二つのコミュニケーション」に
  治療・援助におけるコミュニケーション  コミュニケーションとは   
                           治療・援助関係とコミュニケーション   
                           治療・援助におけるコミュニケーションのコツ 
   

 
 


 作業をもちいる療法は、施され、受ける医療 (cure、care) とは異なり、対象者自身が主体的に取り組み、対処する (do、cope)ことで、初めてその効果が現れます。病いや不慮の事故により、生活、社会とのかかわりを失い、奪われた人が、やすらぎ、ほっとし、もう一度自分の人生に望みを抱き、自らの生きがいや生活を取りもどす、主体性の回復があってこそ、リハビリテーション技法としての作業をもちいる療法が意味をもつ。

 しかし、病いや障害に苦しむ人たちの多くは、不安や混乱のなかで困惑していたり、現実の世界から身を守るように内的世界に引きこもっていたり、自分を襲う被害感や不安から他者との接触を避けていることのほうが多いのが現状である。病いや不慮の事故により、主体性を失い、奪われた者は、主体性を限りなく押し殺すことで、かろうじて自己を守っているといえる。

 そうした人たちが、主体性を回復し、失われ、奪われた生活とのかかわりを取りもどすための、作業を介した自己と身体との語らい(コミュニケーション)、作業をすることによる自己と生活との語らい(コミュニケーション)を支えることが、作業をもちいて治療・援助にあたる者の重要な役割と考える。その役割をはたすには、治療や援助を必要としている人を、一人の生活者として、その人の生きている文化や生きてきた生活史に必然的に含まれる個別性を、まず丸ごととらえることから始まりる。

 その人が、これまでどのように生活してきたのか、今どのような思いで生活しているのか、これからどのような環境でどのように生活しようとしているのかなど、その人とその生活を知るということから始まる。そして、病いや障害により閉ざされたこころと向き合い、その人が自分の身体や生活、社会とのかかわりを取りもどすプロセスを、パートナーとして歩みながら、必要な知識技術を提供し、相談に応じる。

  **詳細は『治療・援助におけるコミュニケーション』三輪書店,2008