ひとと音・音楽に 

  

    *表現様式と発達:さらに詳しくは    ⇒ 「心身機能の発達と表現様式」   


 音楽は、表現様式(図)という点からすれば、言語よりプリミティブな自己表現、自己投影が、リズムをともなった身体運動と深く関連してなされる。そのため、カタルシスをともなう高次元の自己愛を満たす。また、その適度なリズムは、混乱した心身のリズムを取り戻し、身体の動きを引き出す。聴覚を通して入ってくる音刺激の中で、音楽は左脳の言語野を通らず、右脳を経由し直感的な知覚認知と結びつき、自律神経系に投影され、そのときの適応水準によって賦活と鎮静の両機能が働く
 
 歌うとか、管楽器の演奏は、呼吸機能、心肺機能と関係し、打楽器などはやや粗大な動きから巧緻的な動きまで身体の協調運動を引き出し、自分と身体の一体感を取り戻し、身体自我感覚の回復を促す。またその身体運動は、音楽としての意味への投影とともに、ひずんだこころのエネルギーを昇華された活動へとむける。精神機能的には、衝動(精神的エネルギー)が身体エネルギーに代償され、適応的に発散される行為といえる。
 
 舞踏、音楽、造形・描画、言語などの表現の違いを比較し、そのイメージをスケッチしたものが図である。「描く」行為は、舞踏や一般的な音楽表現(歌詞に意味をもたせたものは別であるが)よりは言語性が高く、身体表現と言語表現の間にある非言語的表現にあたる。文字で表したり言葉で伝える表現行為に比べると、「描く」という行為は、知覚・認知過程で知性化のフィルターを通ることが少ない。したがって、「描く」行為は、言葉で表しきれないものを意識的に表現すると同時に、言語として知的に統合される以前の無意識的なものが表現されやすいと思われる。