NMT理論と技法の検証に
 言語リハビリテーションの領域には、MIT、MUSTIM、RSC、VIR、TS、OMREX、DSLM、SYCOMの8つの技法があり、失語症などの発話・言語障害の訓練、コミュニケーションに関する基本機能の改善にもちいられる。

 言語聴覚訓練の領域の主に発声や構音など基本的な音声機能の訓練に歌唱や吹奏楽器などで構音や呼吸機能
         をもちいるもの。
 
 音楽の神経学的な活用という点からすれば、言語リハビリテーションの領域は、感覚運動リハビリテーションの領域についで音楽の特性を活かすことができる領域といえる。この領域の8つの技法のうちMITRSCTSは従来、言語聴覚療法の領域や作業療法の一部でも行われていたものを、NMTとしてさらに音楽の特性を明確にした技法として整理を試みたもののように思われる。しかし、他の方法を含めて、いずれも従来のいわゆる音楽療法としてすでに実施されていて、技法としても確立されたものもある。それらを呼称を変えて、あえてNMTに分類することの意味や目的が問われるのではないだろうか。感覚運動領域において、RASによる歩行の開始やリズムといった繰り返される基本運動に、NMTが効果的であったように、言語リハビリテーションの領域においても、比較的重篤な言語障害を有する人たちの、呼吸機能や基本的な発語機能の障害に対するファシリテーション的な訓練としては有用だが、応用的な会話の訓練にはNMTは適応ではない。NMTは言語リハビリテーションの発声や構音など基本機能の訓練を整理したものといえよう。

メロディック・イントネーション療法Melodic Intonation TherapyMIT               

概要:MITは、対象者の歌唱力を利用し、言葉にメロディーをつけて歌うことで発話を促すもので、いわゆる語り歌
   いをもちいた技法といえる。

適用:主に、ブローカ失語(発語失行症にも適用可能というデータもある)  




 


CLICK
自発的な発話は難しいが、覚えている歌なら歌えるという現象にみられるように、言語に音楽性をもたせることで、左脳の言語野から右脳の音楽機能への移動を利用し発語を促すというもの。そのため、ブローカ失語には適しているが、ウェルニッケ失語、超皮質失語、全失語、伝導失語などは適切な対象とはいえない。ブローカ失語に対しては、脳の機能分化を利用したもので、音楽をもちいる効果の高い技法よいえる。言語聴覚療法や作業療法で従来から利用されていたものと同様のものである。

 脳に関しては脳の構造と機能、失語に関しては失語・失行・失 
 

音楽による発話刺激:Musical StimulationMUSTIM                                

概要:MUSTIMは、対象者がほとんど意識しなくても自然に歌詞を口ずさむような、歌うという反応を利用して、韻律
   的な表現を模倣し発話を促す技法である。

適用:主に、失語症にもちいられる。  


習慣的、反射的に口ずさむような機能を利用するものであるため、発話に関係する神経系を広く賦活する効果はあると思われる。そのため、意図的な会話や臨機応変な発話に移行するものではない。通常の発話への移行は、日常の言語活動の中で行われるもので、MUSYIMで行うことにこだわらない方がよい。通常の発話に移行する準備訓練としてもちいることができる。 

リズムによる発話合図:Rhythmic Speech CueingRSC                            

概要:RSCは、パターン化したリズムまたはメトロノームなどの合図を用いて発話の開始を促したり、発話の流ちょ
   う性や速度をコントロールする

   
適用:主に構音障害(dysarthria)、吃音、流ちょう性障害(fluency disorder)にもちいられる
。  


感覚運動リハビリテーションにおけるRASと同様に、あるリズムをもっている発話を音やリズムによりコントロールするものである。ただし、歌唱で流ちょう性を回復しても、発話につながるとは限らない。また、右半球に病変がある場合は、音楽刺激が混乱を増長させる危険性もあるので注意が必要である。 
 音声抑揚訓練:Vocal Intonation TherapyVIT                                   

概要:VITは、歌唱や音楽による発話などで、ブローカ失語、音色や大きさに支障がある場合などに関して、広く声
   を出すということに関連する発話の側面を訓練する技法と言える。

適用
:主に発話障害(vocal disorder)にもちいられる。


構成された歌唱やその他の発声訓練により、声の抑揚・調子・呼吸調整・音色・大きさなど発声のコントロールに関する訓練で単独に用いられることは少ない。
 治療的歌唱:Therapeutic SingingTS                                            
概要:TSは、歌唱活動により、発話と言語表出、、呼吸器の機能を向上させる技法である。
適用:主に、発達の問題による発語、言語機能障害にもちいられる。
目的を限定しない歌唱活動による発話、呼吸を中心に広い機能に対応するとされるが、従来の音楽療法でおこなわれてきた方法と同様の元と言える。違いがあるとすれば、どこが違うのか、技法と目的の違いを具体的に示す必要がある。
 口腔運動・呼吸訓練:Oral Motor and Respiratory ExerciseOMREX                   

概要:OMREXは、吹奏楽器や発声により、発声の明瞭化、発話器官や呼吸機能の強化を図る技法
適用:主に、発達障害(developmental disorder)、構音障害(dysarthria)、筋ジストロフィー(muscle dystrophy) 


心肺機能の強化など基本的な呼吸機能などの訓練を行うもので、言語聴覚訓練や従来の音楽療法、リハビリテーションの中で行われているもの。
音楽による発話・言語発達訓練                            

Developmental Speech & Language training throught MusicDSLM           

概要DSLMは、歌唱、詠唱、楽器演奏など音楽と発話や動作を組み合わせることで、発話と言語発達の促進を図る
適応:主に、発話や言語発達の遅れ
の基礎訓練にもちいられる。

すでに発達に障害がある子どもへの音楽を用いた教育法として確立されたものがある中で、DSLMという名称をあえて付けるのであれば、NMTの技法として特異的といえる訓練法と目的を具体的に示す必要がある。
 音表象によるコミュニケーション訓練                                            

 Symbolic Communication through MusicSYCOM

概要:SYCOMは楽器演奏や歌唱による即興演奏の非言語表現機能を用い感情の伝達、適切な発話による意思表示、コミュ     ニケーション行動の訓練技法
適用:主に、語機能の重篤な喪失

音楽の特性をすべて利用するものというが、こうした非言語活動の象徴機能もちいたコミュニケーションは、芸術療法やさまざまな形式で行われている。これをNMTの技法とすれば従来の音楽療法で行われているものと何がどのように異なるのかが問われる。また神経疾患を原因とする感覚機能、運動機能、認知機能の障害に対して、音楽のもつ要素と音楽性を手段として治療的介入を図るというNMTの定義を大きく超えることにならないかということが懸念される。
 NMT理論と技法の検証に