トップページ 作業・作業療法 精神障害と作業療法 認知症・高齢者 作業・生活行為 集団・場 植物・園芸 音・音楽 研修情報 資料コーナー 
作業の知

  「作業をすることは,自然のもっとも優れた医師であり,それが人間の幸福についての条件である」とギリシアの医師Galen(130〜201AD)が言う.
 作業の何に,ひとが作業をすることの何を,そのように感じたのだろうか.作業の意味は時代や文化の影響を色濃く受ける.しかし古代ギリシャの医師は,そうした影響を超えた本質としてのクオリアを,何か感知していたのではないだろうか.
 作業・作業活動とその過程や結果がもつ意味・特性,作業遂行がひとに求める心身の諸機能,作業遂行により心身に生じること,ひととひとが作業を通して体験を共有するときに生まれるもの,それらすべてが「道具として」の作業・作業活動がアフォードしているものといえよう.

 ヒトは手で土を掘り,食物を採取し,物を運ぶ.ヒトからひとへ,その進化の過程において,ひとは日々のくらしの中でさまざまな作業を通して,自らの心身の仕組みや機能の限界に行きづまった.自らの心身の仕組みや機能を補い高めることを考えたのだろう.そして,試行錯誤のなかから道具をつくり,道具が道具を生み,工作人ホモ・ファーベルhomofaberとよばれるようになった.
 道具は,人間の身体の各器官の働きを助けるために,ひとが知恵と工夫で心身の仕組みと機能を延長・発展させたものである.作業療法では,作業をあたかも道具のように使って,治療や援助をおこなう.作業を道具のように使うということは,ひとと作業の関係に含まれるさまざまな要素を,道具を使うように意識してもちいるということを意味する.ひとが作った道具をはるかに超える特性を秘めている作業,それを道具のように意識して使いこなすには,作業がアフォード*2しているクオリア(本質としての意味・機能)をどのようにとらえることができるか,作業遂行にともなうひとと作業の相互性をどのように生かすことができるかが問われる.

          作業をすることは,自然のもっとも優れた医師であり,
          それが人間の幸福についての条件である
                                        (Galen ギリシア 130〜201AD)
 
 作業のクオリア
 
 作業と結果 ・価値,意味をともなう − 意味性 → モチベーション,自己愛,拡張自我
・目的に導かれる    − 目的性 → 注意,集中,自動
・過程,結果があきらか − 具体性 → 現実検討,表現,具現化,積極的自閉
・気持ちがあらわれる  − 投影性 → 非言語的メッセージ,共感,カタルシス,自己洞察
 ひとが作業する ・意志がはたらく    − 能動性 → 主体性,中枢神経系の使用  
・からだを使う     − 身体性 → 心身諸機能の賦活,快の情動,感覚入力,リズム,身体エネルギー
・素材,道具をもちいる − 操作性 → 現実検討,有能感
・我を忘れる      − 没我性 → 没頭,フロー体験
 ともに作業する ・体験をともにする   − 共有性 → 二者関係,集団内相互作用,間身体性

 意味性-価値,意味をともなう
 
 作業そのものが固有の意味をもっている
 
 作業や作業活動にともなう行為や結果が社会的・個人的な価値や意味をともなう
  作業療法  本人の主体的な行為がともなって初め効果がある

  作業や作業活動の社会的・個人的な価値や意味は,モチベーション,自己愛などに影響し,そのことが対象者の主体性に大きな影響をもたらし,効果を左右する



 目的性-目的に導かれる
 
 作業は本来それ自体が目的をもっている
  作業遂行に必要な行為や動作はその目的に導かれた合目的的行為,合目的的動作

   作業をおこなうということは,脳の機能からすれば能動的な行為であり,つねに作業の意味性と目的性に導かれる(従う)という受動性の要素が含まれている.
  効果を左右する


 具体性-過程,結果が明らか
  過程における行為・行動とその結果が具体的に現れる
  過程や結果が具体的であるため,自分が「できる」という感じをつかみやすく,達成感や満足感を得やすい.
  自らの具体的な行動がともなうことで,「ああ,そうか」,「ああ,これでいいのか」,「これでいいんだ」といったような理解や納得,すなわち,作業活動をおこ
  なった本人に,自分の力に対する現実検討をもたらす


 
投影性-気持ちが表れる

  作業遂行にともなう行為や行動に,作業をおこなう人の精神内界や心理状態,性格などが現れ,行為や行動の変化にその人のこころのうちが映しだされる.
  作業活動にともなう行為や行動,作品に投影される非言語的なメッセージを読みとり,感じとることで,その人の気持ちを推し量りながら関わる.

   ことばを超えたメッセージを生かしたかかわりは,ひとのこころの痛みに直接ふれることなく,病む者のこころを包み安心感を与える.

 能動性-意志がはたらく
  作業をするということは,それ自体,何らかの目的をもった,能動的な意志の働き
  脳が判断し指示を出すからからだは動く.他の人から指示されておこなったり,自分が十分意識せずにおこなった場合でも,自らの行為・行動がみられた以上,脳   の機能からすれば,それは個人の意志による能動的な働きにあたる.


             


 
身体性-からだを使
  からだをほぐして こころをほぐす
  衝動を身体エネルギーで発散する
  繰り返しがもたらすこころの安らぎ
  五官を開き 五感に聴く
  「からだで覚える」表象形成

  ひとは自分という身体を生きている.身体があるから自分がある → 心身相関


 操作性-素材,道具をもちいる
  道具は,運動,知覚,認知など身体機能,精神機能を育て,補い,拡大延長したり,自分や自分の家族を保護する.
  道具は,その使用にともなう有能感の充足と現実検討という二面性が生かされるとき,ひとが外界に対する自己の影響性を知り,現実世界に適応する過程を助ける.


 没我性-我をわすれる
  没我性は,目的行為をおこなう選択的な意識の集中,作業活動にともなう心地よい身体リズムや感覚刺激,自分の行為で何かがなされていく達成感,道具や素材を   うまく扱うことによる有能感,
  その他作業活動にともなうさまざまな要素が絡み合って生まれる
  没我性は,ひとが生まれ,育ち,日々の生活を送るなかで,どうにもならない悲しみや痛みを超える力を秘め,ひとを癒す.遊び・余暇的なものに限らずすべての   作業活動に含まれている力.


 
共有性-体験をともにする

  外部刺激を感知する人の五官や感知された五感は,ひととしての生理的レベルではほぼ共通.ことばは,メタファーなしには使いものにならないが,感性的メタフ   ァーは,すべて身体的感覚と知覚に基づいている
  ひとの身体感覚(五官によって感受される五感)の生理的な共通性と,共に活動を体験した共有体験に支えられた一体感が,コミュニケーションを成り立たせる

 
ZIZI-YAMAトップページへ