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    関連の論文等
        @「パラレルな場」という治療構造−ひとの集まりの場の治療的利用.コミュニケーション障害学26,87-191,2009
        Aパラレルな場(トポス)の利用 作業療法18巻2号,1999 

         Bパラレルな場の落とし穴 第12回臨床作業療法夏期研修で使用したプレゼン資料 2014

                  
                               パラレルな場とは            (詳細は「ひとと集団・場」三輪書店pp73-112)
 「パラレルな場(トポス)」は、ひとの中にいて、他者と同じことをしなくてもよい、自分の状態や目的に応じた利用ができ、いつだれが訪れても、断続的な参加であっても、わけへだてなく受け入れられる場をいう。従来の集団力動をもちいる集団療法、共通の目標や課題に取り組む療法集団とは異なる、作業療法の試行から生まれた、ひとの集まりの場をもちいた新たな療法の形態である。

 ひとりで音楽を聴いたり、絵を描いたり、自分の活動に取り組む人。それを見て過ごしているうちに、自分もしてみたくなり、活動している人に話しかけたり、スタッフに教えてほしいといってくる人。調子を崩して参加がとぎれ数週間ぶりに来た人。「私覚えてる?ちょっと疲れて、入院したの」と数年ぶりに顔をみせた人。いろいろな人が、それぞれの状態に応じて参加する。暖かで柔らかな雰囲気に包まれ、だれでも受け入れてもらえる場が安らぎをもたらし、緊張や自閉のカラをといていく。ゆるやかな治療構造の中で、自然なひとと人とのかかわりから生まれる相互の作用により、集う者自らが変わってゆく。時の流れに乗じたはたらきかけができることが、「パラレルな場(トポス)」の魅力といえよう。


集団療法との違い
 「パラレルな場」と集団療法、ともにひとの集まりを利用するが、パラレルな場では、場の力動から自然に生まれる相互協力を必要に応じて使う。場の成熟は積極的にはかるが、凝集性を高めないことで相互のパラレルな関係を維持する。ひとが場を共有するだけで生まれるのではなく、場に生じている現象をしっかりと把握しながら、必要なとき以外の操作介入を極力少なくするセラピストの存在によって生まれる場である。

パラレルな場の効用
 パラレルな場は、通常の集団療法に比べて相互の影響性がゆるやかであるため、参加に対する緊張感が少ない。さまざまな状態の人がそれぞれのありようで過ごす姿や、場を共にすることで、治療援助にあたる者のかかわりを自然に見聞きする。その自然に見聞きすることが、普遍的体験をともなう安心感をあたえる機会となったり、他者とのかかわり方や距離の取り方を見て学ぶ自然な模倣の機会となる。

 入院という環境に合っては、パラレルな場は、もっとも現実社会に近く、しかもモラトリアムな時空が保障されている。好奇や差別、排除、何かを強いるようなまなざしのない、安心と安全が保障された場は、ソーシャル・ホールディングの機能をはたす。あるがままを受け入れてくれる場は、自我を脅かすことなく、試行探索行動を保障する。その保障が適応的な対処行動を引きおこし、有能感や自己愛を満たし、現実の生活世界に向けた歩みを促す。

 治療援助にあたる者の適切でわずかな支持と援助があれば、共に場を過ごす者同士の自然な交流も生まれ、自閉されていた活動性が適度に刺激され、主体的な行動が回復する機会となる。場が成熟すれば、課題集団では見ることのできないソーシャル・サポートの萌芽のようなピア・サポートが自然に生まれる。自然な支えあいが、感情の修正体験として重なり、自我を強化し対人処理能力が改善される機会にもなる。


                            


パラレルな場の利用
 治療の場としてのパラレルな場は、その場を成熟させ、維持する人の存在によって成りたつ。通常の治療に比べ、構造がゆるやかで操作が少ないため、ややもすると場におけるかかわりがあいまいになる恐れがある。パラレルな場を活かすには、その治療構造を維持し、特性を把握した運営が必要である。

           


スタッフの役割
 パラレルな場は、
 ・安心してそこにいることができる
 ・自分の思いを言葉や作業活動で表現できる
 ・それが共有の体験の場で他の人に支えられる
 ・そうしてその人自らが、自分の生活を見いだしていけるようにする
ことが基本である。
 このゆるやかで柔らかな場の力をしっかりと引き出し、臨機応変な対応をおこなうために、スタッフは、
 ・場の目的を明確にする
 ・場の構造をしっかりと把握する
 ・他の職種が場の機能や特性を理解し利用できるようにする
などを心がける必要がある。

適応対象と適正数
 パラレルな場の適応となる対象や状況を図に示す。
 表は精神科早期作業療法や認知機能が低下し易刺激的になっている人に対するパラレルな場における作業の機能。こうした作業の利用は、パラレルな場がもっとも効果的である。
 図の@からEを回復過程や障害の状態という視点から見れば、パラレルな場は、急性期離脱直後から回復期初期と維持期(慢性期)の自閉的な状態が主な適応対象である。
 利用者の人数は、少なすぎても多すぎても、パラレルというひとの集まりの場が成りたたなくなる。最低常時の利用者が4〜5名、パラレルという場の基本的な機能を活かすには10〜15名、一室でおこなう場合は、20〜30名程度なら一つの場としてパラレルな機能を活かすことができる。スタッフ一人あたりの担当数は、4〜5名くらい、いろいろなレベルの人が参加するようになれば、一人の作業療法士が10名程度なら対応できるようになる。参加者同士が互いに援助し合う、ピア・サポートがみられるようになれば、10名くらいの参加があっても、作業療法士は導入期の人や本当に援助が必要な人にも十分関わることができる。

                    

導入時期と方法
 要安静状態を離脱したら、様子を見ながら関係ができている者が本人をともなって見学するなど、実際にその場を見る機会をもつようにするとよい。

場の成熟と期間
 ある文化をもった場が育つには時間が必要で、経験的には、場ができる目安は最低2〜3年、一応安定した場になるのに4〜5年はかかるとみている。いったん場ができあがると、急性期の作業療法のプログラムのような短期間で利用者が移り変わる場であっても、その文化がまるで踏襲されるかのように機能するようになる。
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